闇鍋
僕、荒屋道呈は今ある意味危機に陥っていた。
目の前にある禍々しき闇・・・僕の正気をどこまでも狂わそうとする・・。
神様・・これはどのような意図における試練なのでしょうか!?
グツグツ
「うわあ、今日の鍋はおもしろい色してるねえ♪」
「当たり前よ、兇ちゃん♪我が家初の闇鍋だもの♪」
僕の目の前にあるのはなにか甘いんだか辛いんだか判別できない奇妙な臭いを放ち、
視覚的にもグロテスクな赤黒い色で僕の目を攻撃する・・・鍋だ、闇鍋。
それに盛り上がっているのは、我が弟の兇坊と、姉の諸田子だ。
うかれてる二人の様に間違っても僕はなれない。
この鍋はそころの闇鍋とは次元が違う・・・
僕はそう確信していた。
特に凶暴という異名をつけるにふさわしい弟の兇坊・・・
彼が入れた材料こそ、この鍋を目にも鼻にも優しくない鍋へと変貌させたのだ。
今日の夜、惨劇は起こる・・・。
まずは事のいきさつを教えよう。
何年か前に親が僕等全員勘当して以来、僕等は姉を中心として三人で暮らしてきた。
当時まだ幼かった弟、彼を一番支えたのは姉だった。
姉はショタコ・・いや、弟をとても可愛がる人だった。
だから僕は少し面倒な弟の世話を姉にずっと任せ、自分の事だけを考えて生きていた。
だがそれがいけなかったのだ。
姉の超甘やかし生活によって弟の性格はどんどん悪い方向へと進んでいく。
いつしか無邪気ながらも凶悪な心をもつとんでもない人間へと変貌。
僕はもっと早く気づくべきだったと思う。
現在12歳の弟・・・彼は自分の身長以上はある巨大な金槌を持ち歩く、ホラー丸出しな存在となり、僕はいくらなんでも逆らえなかった。
そんな弟が突然言い出したのは
「学校で闇鍋の話してたんだ〜!家でもやりたいね!!」
・・・・。僕は高校の卒業パーティーを友達の家でやったさいに、なぜか闇鍋をやったのだが・・・
洋梨が中にはいっているなど、えげつない食事だったためにやりたくなかった。
しかし!
この家の一番のやっかいものというにふさわしい姉が、弟の願望を本当に実行することを決めてしまった。
「あ〜、闇鍋ね!!闇鍋って兇ちゃんはまだよく分かってないみたいね。
でも大丈夫!!お姉ちゃんが手取り足取り教えてあげるから〜!!」
こうベラベラとその場の勢いに身をゆだねちゃってる姉を僕は咎めるも、もう既に弟はやる気になってしまっていて、時既に遅し状態。
で、現在に至るわけだ。
『じゃあ・・いただきま〜す』
姉と弟は同時に声をそろえてそう言うも、僕はそんな気分ではなかった。
そりゃあ、友達とやった闇鍋も嫌だったが、この闇鍋は本当に上位種というにふさわしい物体だ。
食べる気なんておきるはずがなく・・・
「ねえ、道呈。どうして“いただきます”を言わないの・・?」
少し幼い声でありながら、威圧感をかなり含んだ声が僕の横から耳に入っていく。
間違いなく弟の声・・・僕は鍋で汗かくまえに、冷や汗がダラダラ状態となる。
「え?あ、ああ・・いたただきます!」
威圧感ある弟を刺激する行動は決して避けなくてはならない・・僕はすぐに「いただきます」を言う事で弟の機嫌をとった。
横を見ると、すっかり満足したのか、弟はもうニコニコしていた。
先ほどはいったいどういう表情で僕を見ていたのだろうか・・・いや、想像してはいけない!!
決して下賎のクズを見るような目で僕を見ていない、そうに決まっている、というかそう信じたい。
「じゃあ、暗くしちゃうわよ!!スイッチ・・オフ!!」
パッ
家の明かりが全て消え、僕達の頼りとなる光は、家の周辺にある電灯の明かりぐらいか・・
「って姉貴、どうやって明かり消したの!?」
闇に溶け込むような感覚を遮ったのは一つの疑問。
今この場で誰一人その場を動いていない。
なのに明かりは突然消えた。
しかも姉が「スイッチ・オフ」と言った直後。
このどこぞのイリュージョンマジックにありそうなのを姉はいつ習得したというのか!?
姉は暗闇の中、クスクスと笑い始める。
なんか魔女って感じがしなくもないけど、姉の場合本当に魔女のような性格をしている気がする。
魔女のごとく子供(少年)を食べようとする所がね、本当に。
「知りたいのね、私の秘密を!!巨魂ちゃん!!おいで!!」
『ニャ!!!』
姉の一声で突如ドスの効いた猫が部屋に響いたかと思うと、僕の顔をなにかがかすめた。
だが暗くてなにも見えない。
「巨魂ちゃんが明かりをつけてくれたのよ、最近出会いをはたしたとてもお利巧さんな猫ちゃんよ!!」
「うわ〜!!お姉ちゃんすご〜い!!」
巨根・・・巨魂!?
僕はいつしかに会った、喋る猫を思い出した。
というか奴だよ。あのヤクザくさい男前猫。
一ヶ月ほど前、僕は彼によって風俗に連れて行かれそうに・・・
と思いきや、手のツボ押しなお店でした〜、なんて出来事を引き起こしたとんでもない猫・・・
まさか再び会う事になるとは・・・・。
いや、暗くてよく分からないけど。
結局ゲストである猫の事はほっとかれて、僕等は暗闇の中鍋に箸を入れる。
・・・・・・・。
なんか無駄に硬くてでかい物体があるのは気のせい・・ではないね。
ん・・この触感は大根、確か僕が用意した材料だ!
まずは当たりをひいて良かった・・・
が、そんな油断をしていた僕の箸を突然別の箸が弾いて、
「これいただき〜!!」
弟の声が一体何が起きたのかを物語った。
僕が先ほど箸を入れた地点には、もう大根の触感は感じられない・・そんなあ・・・。
仕方なく、硬い物体はあえてスルーして、やっと卵らしき触感に辿りつき、僕はそれを箸でつかんで自分の器へとポイッといく。
まあ結果オーライか。
「ではそろそろみんな選んだわね!では、スイッチオン!!」
姉の声と指鳴らしが例の猫への合図となったのだろう、再び部屋に明かりがつく。
僕等は自分の取ったもの、他の人が取ったもの、互いに確認する事を怠らない。
結果・・僕は真っ白なゆで卵らしきもの、弟は案の定大根、そして姉は・・・
なんかウインナーぐらいかそれ以上な大きさの謎の物体・・・って何だこれは!?
「こ、これは何かなあ・・・?兇ちゃん、これは・・兇ちゃんがいれたものだよね・・?」
さすがの姉も青ざめた表情を隠しきれていない。
弟スキーな姉、今は目の前の物体に意識が集中しているのは間違いないこと。
にしても、姉の取ったウインナーっぽい物体、先端に微妙に穴っぽいものが・・・ま、まさか・・・
「あ、姉貴・・これってもしや・・・。」
「ち、違うに決まってるじゃない!!そんなものどこで用意できるのよ!!」
僕と姉の会話、成り立ってないようで、実は成り立ってると僕は確信している。
僕と姉が思い浮かんでしまった物体は恐らく同じ。
そしてその名前はあえて言わない、というか言いたくない。
たぶん・・たぶん違うと信じてるけど・・もし本物だったら彼女はとんでもないものを食べる事になる。
そして僕と姉の中で「もう考えない方がいいだろう」と考え付いたであろうそんなときに、弟は姉のした質問に答えようとする。
「ええとね、それは以前に僕を脅してお金とろうとした不良さん達にね、ちょいと僕・・・」
「もういいです!!兇ちゃん、わ、分かっちゃったからもう言わなくていいからああああ!!!!」
こんなヒステリックな姉を今までに見た事は無い。
いや、気持ちは痛いほど分かる。
そしてこの物体が何なのか、もうほぼ確定された。
そして姉はそれを食べる事になってしまった・・・女の人になんてものを食べさせるんだ!!いや、男も食べたくはないけど。
「じゃあまずは僕から食べるね〜!!」
姉の苦しみも知らずに弟は一口で大根を食べる。
モグモグと幸せそうにしている彼を見て、姉の表情の強張りも少し解凍されたけど、それでもまだまだ体は震えている。
そしてとうとう姉の番・・・
「姉貴・・息をしないで食べるんだ!!」
僕は姉にこう助言することしかできない。
いくらなんでも姉の反応を見て楽しむことなどできるはずがない!
姉は僕のほうを脅えたような目で見て、コクンと頷き、とうとう謎の物体を口にいれた!
「・・・・あら、柔らかい・・。」
姉の顔がみるみる元気になっていく。
柔らかい・・確かに僕等が想像していた物体は、とても柔らかい触感がするとは思えない物体だ。
状態によってはフニャフニャだったりギンギンだったりするものだけど、食べて柔らかいとは言い難い。
と言う事は・・・単なる思い違いって事だったのか。
「これ何かは分からないけど・・とても柔らかくておいしい!!」
姉は少し前の顔とは違って、やっと笑顔を見せる。
僕もホッとした気分だ・・・。
弟も自分が用意したものがおいしいと言われたからか、日本の箸をバチバチと叩きあわせて大喜びだ。
「やっぱりおいしかった!?圧力鍋で柔らかくしてみたのがよかったみたいだね!!」
弟も喜・・圧力鍋、あつりょくなべ、あつりょく・・・
「いやあああああ!!!やっぱり私が食べたのはああ!!!
もうお嫁に絶対に行けないぃぃぃぃいいいい!!!!!」
いっきに狂乱諸田子へと変わり果ててしまった姉、
もうポカーンとするしかない僕、
やはり姉が食べたのはアレだったのか。
その弟を脅した不良が中学生、高校生だったなら姉のストライクゾーンであろうが、それ以上だったら・・・・。
それ以前に弟よ、どう手に入れたんだ!!
その不良は今どうなっているんだ!?
もういい!!これ以上深くはいりすぎると危険だ!!
姉には悪いけど、僕は卵を食べさせていただきます!!
「では、次は僕がいただきます!!」
そしてまずは箸で卵を割る。
ブシュッ
割った瞬間だった。
血しぶきのように卵から飛び出る赤い液体、僕の顔に思いっきりぶっかかる。
・・・これ・・・何・・?
ケチャップですか?ケチャップだよねえ?
その割にはシャビシャビしてるねえ・・・。
だとしたらトマトジュースだよねえ?
その割には鉄分含んでいるような臭いするけど・・・。
え!?コレ本当に何なの!?
「ププッ!!お姉ちゃん!!道呈アレ食べたよ!!アハハハハッ!!」
なんか一人爆笑モードに突入している弟、と思いきや
「ブハハハハハハッ!!!!アレ・アレ食べちゃったよ!!!!」
さっきノックアウトしたと思われた姉までもが大爆笑。
アレって何だ!?
さっきはあんまり反応しなかった弟が今度は爆笑、これは姉が食べたやつ以上に恐ろしいものなのか!?
「ちょっと!!これ何なのさ!?しかも食べる前に中身ほとんど噴き出しちゃったんですけど〜!!!」
この真に未知なる物体に僕は当たってしまった、本当に一番災難な役は僕かよ!!
二人は腹をかかえて爆笑していて話にならない。
しかし姉だってウインナーっぽい物体を食べたんだ!
僕もこの気味悪さの頂点を極めそうな食べ物を食べるしかない!!
食す!!!!
・・・。
・・・・・鉄・・・鉄の味がするよ・・・ヴァンパイアが小躍りしちゃいそうな味だよ・・・・。
周りの白い部分の味は全くしなくて、そのうえ食感はヌルヌルしている・・・いや、本当に何だよこれは!!
「あの〜・・このまずい物体・・なんですか・・?」
もう半分どうでもよくなった僕の質問にもちろん二人とも答えず、逆におさまっていた笑いを再発してしまっただけだった。
結局僕は自分が食べた怪食物(食物!?)について何も知る事はできなかった。
そして再び次のゲデモノ・・ではなくて、次の具を僕等は選ぶ。もちろん部屋を暗くして。
「では二回目に食べるものは選んだわね・・・スイッチオン!!」
もうどうでも良くなっていた僕は微妙な柔らかさをしていた物体を選んでいたわけだけど・・・・。
結果は弟がピーマン、姉がこんにゃく、そして僕はなんとお魚の白身だった!!なんと普通だ!!
僕はずっとやられ役だと思っていたら・・・こんなときもあるんだな・・。
して、今回唯一はずれをひいたのは、サド系の弟だった。
僕は絶対弟はずっと当たりだけをひくと思ったら・・。
「え〜!!ピーマン嫌いなのに・・・。」
すごい嫌そうな顔をしている弟、久しぶりに可愛らしいと思ったよ、本当に。
「だめよ〜・・兇ちゃんが闇鍋やるって言ったんだから♪」
明らかにピーマンを入れた犯人であろう姉はもう口裂け女のように口を三日月型にし、目を細めたその表情、
メチャクチャいやらしい!!
弟も自分の言った事には責任を持つ男、目をつぶってピーマンを口に放り込む。
咬んで、咬んで・・・・
「苦いよ〜・・。」
涙ぐむ弟、もう僕は次に何がおきるか分かるぞ。
「きゃわいい!!!私もこんにゃく食べちゃうよ〜ん!!!」
姉が大興奮!!
隣で涙が止まらないようである弟のじっくりと鑑賞しながら、彼女はこんにゃくを口にほうりこむ。
「う〜ん、私はおいしいものブフーーーーーーッッ!!!!」
姉は恐らく「私はおいしいもの食べてるから〜♪」とでも言おうとしたのだろう。
だが実際に彼女がやった行動は、こんにゃくを吹き出すという下品な行動。
「こ、こればな、バナ、こんにゃくにバナナが入ってる!!!」
はいっ!?バナナ!?
間違いなく弟が入れたものだろうけど・・・確かにこんにゃくとバナナって食感の問題上、合わないだろうなあ・・・。
となると当たりなのは僕だけか。。
僕はゆっくりと箸で白身をつかみ、
「では、いただかせてもらいます。」
と他の二人に先ほどひどい目にあわされたので、その仕返しとばかりに白身魚を一口で食べる・・つもりが・・・
『ニャッ!!!』
「うぼえらああ!!!」
僕は奇怪な叫びとともに突然目の前を恐ろしい勢いで通り過ぎた何者かに驚きひっくり返る。
何者・・っていっても「ニャ」ってついた時点で正体は分かっている!!巨魂か!?
じゃないよ!!それどころじゃない!!白身がなくなってる!!
僕が猫が通り過ぎた方向を見ると、そこには白身を口にくわえて堂々としている猫が一匹いた。
まるで一匹狼のような威圧感・・・相変わらず猫とは思えない!!
「って猫さん!?それ何勝手に奪ってるのおお!?」
僕の悲痛の叫びも虚しく、猫は鼻で笑ったとおもいきや
『なんやボウズ、これが欲しいんやったら・・・・お魚加えたドラ猫を裸足で追いかける勢いで来いやあああ!!!』
そう吼えたて、僕が威圧されてる間に窓ガラスをあけて外へと飛び出してしまった。
僕はその一連の出来事にあっけがとられ、ただ開いた窓ガラスを眺めていた・・・。
そんな空虚な僕の心を慰める者は誰もいない、逆に追い立てる者はいる。
「こうなったらやり直しだね!!」
「そうね、猫ちゃんがどっかいっちゃったみたいだし・・・私がスイッチのオン、オフをやるからもう一度選んでね★」
うおおおおおお!!!!
あの猫、僕を本当に地獄に叩き落とすつもりか!!
今度こそヤバイのひいちゃうよ・・。
そしてまた明かりが消される・・。
僕は箸で十分に選ぶものを吟味・・できねえ!!!
これ具が少ない!!
もう硬い物体しかないよ!!これは誰もが避けてきた一番危険なものだよ!!絶対そうに決まっている!!
しかしこれしかないのなら僕は選ぶしかない!!
そしてとうとう明かりがつけられる・・・。
「貝殻・・・?」
硬い物体の正体は貝殻だった。
「あら、よかったじゃない、普通で。」
戻ってきた姉は僕のことでめずらしく喜んでいる様子だったけど、僕はけっして油断ができないことは承知している。
この貝殻・・・中身は何だ・・・。
僕は貝殻をゆっくりと開けて・・でええええ!!!!
すぐ閉じた。
見間違いであって欲しい、幼虫のようなものがいました。
相変わらずニッコリな弟は無邪気な笑みとは裏腹に、とんでもない事を暴露した。
「それサナ○○シだよ〜、それを食べたすっごいダイエットがあるみたいだからね、美容にすっごくいいんだよ〜!!」
ああ、それってサナダ○○ダイエットってやつか、体の中の余分な養分をサナ○ム○が食べてくれるわけか〜。
もともとは人間と共生するのに適した生き物とも聞くからねえ・・・。
「って食えるかああああああああああああ!!!!!!!!」
僕が食べたかどうか、それは永遠の秘密である。
というか何でサ○ダムシが貝殻の中に生きたままいるんだよ・・・・。
おしまい
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